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新潟地方裁判所 昭和34年(ワ)393号 判決

原告 小川善司

被告 小林和平

主文

被告は原告に対し被告及び小林直平、小林睦夫、小林文平、佐藤ナカ、上野康昭、上野享克、柏崎知江子において原告より金十万三千七百三十円の支払を受けると引換えに別紙第一目録記載の土地につき売買による所有権移転登記手続及び金十万七千四百円の支払をなせ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文第一、二項同旨の判決並に金員の支払部分につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十九年七月三十日被告及び小林直平、小林睦夫、小林文平、佐藤ナカ、上野康昭、上野享克、柏崎知江子の八名(もつとも被告以外の七名については被告が代理した)から西蒲原郡西川町大字旗屋字ニレンデン五番地所在の工場一棟家屋番号土手町三番木造板葺平家建建坪七十二坪とその敷地を一括して代金三十五万円にて買受けたもので、別紙第一、第二目録記載の土地が、右の敷地に該当するのであるが、右売買当時、右工場一棟は前記八名の所有であつたが、別紙第一、第二目録記載の土地は右八名の所有ではなかつたところ、被告は、別紙第一、二目録記載の宅地については、いずれも前主旗屋村から昭和三十一年十一月三十日売買によりその所有権を取得して同年十二月二十八日その登記を経由し、別紙第一、第二目録記載の雑種地については、いずれも前主本間孝平から昭和三十一年十二月一日売買によりその所有権を取得して同年同月二十四日その登記を経由した。

二、しかるに被告は原告に対しこれ等の土地につき所有権移転登記手続をなすべき義務があるにもかゝわらず別紙第二目録記載の土地については、昭和三十三年八月二十六日これ等を八百板勝八百板善開の両名に売渡し同年九月二十五日その所有権移転登記をしてしまい、当時別紙第二目録記載の土地の価格は一坪金四千円合計金十万七千四百円であつたから、原告は被告の契約不履行により金十万七千四百円の損害を蒙つた。

三、よつて被告は、原告に対し被告及び小林直平、小林睦夫、小林文平、佐藤ナカ、上野康昭、上野享克、柏崎知江子において原告より売買代金の残金十万三千七百円の支払を受けると引換えに別紙第一目録記載の土地につき、売買による所有権移転登記手続及び金十万七千四百円の支払をなすべき義務があるから、その履行を求めるため本訴請求に及んだと述べ、

立証として甲第一号証、第二号証の一ないし四、第三ないし第五号証を提出し、証人本間孝平の証言と鑑定の結果を援用した。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一項の事実並に同第二項の事実中、被告が別紙第二目録記載の土地につき昭和三十三年八月二十六日これ等を八百板勝八百板善開の両名に売渡し、同年九月二十五日その所有権移転登記をなしたこと、及び売買代金の残金が十万三千七百円であることは認めるが、その余の請求原因事実はこれを争う。

本件売買契約における売主は被告外七名であるから、売買の目的物の一部につき契約不履行を理由とする損害賠償の義務者も被告外七名とならなければならないのに、被告のみにその請求をするのは失当であると述べ

甲第五号証の成立は不知、その余の甲各号証の成立はすべて認めると述べた。

理由

原告主張の請求原因第一項の事実は当事者間に争いのないところであるから、昭和二十九年七月三十日の売買契約は、別紙第一、第二目録記載の土地については、他人の権利をもつて売買の目的となしたものにして、売主は右土地を取得してこれを買主たる原告に移転し、原告をしてその所有権取得登記を得せしめる債務を負うたのであるが、該債務は特段の事情のない限り社会の一般取引上不可分債務に属すると解せられるから従つて被告外七名の売主は各自が右土地全部に亘つてこれを取得して買主たる原告に移転し、原告をして、その所有権取得登記を得せしめる義務をそれぞれ負い、原告は、被告に対しその履行を求め得べきものというべく、しかして被告は右土地を取得しその取得登記を経由したが、別紙第二目録記載の土地については昭和三十三年八月二十六日これを八百板勝、八百板善開の両名に売渡し同年九月二十五日その所有権移転登記をしてしまつたことは当事者間に争いのないところにして、右移転登記により別紙第二目録記載の土地については売主の前記債務は被告の責に帰すべき事由によつて履行不能となつたということができ、かゝる場合には該部分につき、一般の債務不履行として、被告は原告に対し履行に代る損害賠償として昭和三十三年九月二十五日当時における時価相当額の支払をなすべき義務があるものと解すべく、被告は本件売買契約における売主は被告外七名であるから、売買の目的物の一部につき契約不履行を理由とする損害賠償の義務者も被告外七名とならなければならないのに被告のみにその請求をするのは失当であると主張するけれども、本件売買において別紙第二目録記載の土地につき、前記の如き被告の責に帰すべき履行不能を生じた以上、売主の担保責任に関する規定にかかわらず、該部分につき当該被告に一般の債務不履行による損害賠償債務を認めるも妨げなく、また別紙第二目録記載の土地につき前記の如き被告の責に帰すべき履行不能を生じたからといつて直ちに当然、該部分につき売主全員の責に帰すべき履行不能として売主全員において損害賠償債務を負い、各人がその負担部分についてのみ履行の責に任ずるに至つたとはいうことを得ず、かように売主全員の責に帰すべき履行不能として売主全員において損害賠償債務を負うべきであるとなすべき特段の事情については何等の主張立証もないから被告の右主張は採用するに足らず、しかして鑑定の結果によれば昭和三十三年九月二十五日当時における別紙第二目録記載の土地の価格は坪金四千円合計金十万七千四百円であることが認められ、右認定を左右するに足証拠はない。

しからば被告は原告に対し被告及び小林直平、小林睦夫、小林文平、佐藤ナカ、上野康昭、上野享克、柏崎知江子において原告より金十万三千七百円(この金額の売買残代金が存することは当事者間に争いがない)の支払を受けると引換えに別紙第一目録記載の土地につき売買による所有権移転登記手続及び金十万七千四百円の支払をなすべき義務があり、その履行を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、仮執行の宣言は、相当とは認め難いからこれを附さず、主文のとおり判決する。

(裁判官 園田治)

第一目録

西蒲原郡西川町大字旗屋

字ニレンデン五番の十六

一、宅地 三十九坪二勺

同字八十三番の五

一、雑種地 十九歩

第二目録

西蒲原郡西川町大字旗屋

字ニレンデン五番の十五

一、宅地 十八坪八合五勺

同字八十三番の四

一、雑種地 八歩

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